財産分与・年金分割・強制執行
もくじ
財産分与は夫婦共同生活で得られた財産の清算です。
財産分与の対象となる財産は、夫婦が結婚している間(正確には別居前)に取得された財産で、結婚前からもっていた財産や、相続したりもらったりした財産(特有財産)は除かれます。
分与する割合は、原則として2分の1です。会社経営者や医師などの高額所得者の場合、独自の技能により高額の所得を得ているので分与割合が2分の1か問題となりますが、1億円程度では、裁判所は2分の1を認める傾向にあります。
夫婦の共有の資産と負債を合計してブラスの場合に財産分与が行われます。
負債のほうが多くマイナスとなる場合は裁判所は財産分与を認めないので、相手方の負債を負担することはありません。
財産分与の請求は、夫婦の話し合いで可能です。話し合いができない場合は、弁護士に依頼して、交渉してもらう方法や裁判所で調停や訴訟を行う方法があります。
家庭裁判所への財産分与の申立は、離婚後2年以内にする必要がありますので注意が必要です。
財産分与の対象財産
財産分与の対象財産にはどのようなものであるのでしょうか?
土地、建物で代表的なものは、婚姻中に取得した自宅です。若い夫婦の場合、住宅ローンがついており、処分してもお金にならないことが多く、また処分する際にはローンの残債全額の支払を求められますので、一工夫が必要です。住宅ローンのついている土地建物で居住継続を希望する場合は、 今後のローンの支払をどうするかという問題を解決しておく必要があります。
住宅ローンが残っている場合は、不動産の時価から住宅ローンを差し引いた価額を不動産の価額とします。 別居後、妻が居住している自宅に夫が住宅ローンを払い続けた場合、別居後の住宅ローンの支払は財産分与に際して考慮されませんが、婚姻費用で考慮される場合があります。別居時の残高をもって不動産の価額とします。
妻が夫のローンの支払をしている場合、別居後売却して住宅ローンを清算した場合、別居後の残高減少に関する寄与の割合を財産分与に際して考慮することもあります。
妻が別居後も夫が住宅ローンを払っている自宅の取得を希望した場合、妻に相当な収入のない限り、銀行の承諾を得ることはできず、銀行との契約上は債務不履行となりますが、ローンを支払っていれば、競売となることはありません。 妻が自宅を取得し、妻が取得した財産の価格が、2分の1を超える場合は清算金の支払を命じられます。
預貯金と現金については、別居時の残高を対象とします。
子ども名義の預貯金については、親が子ども名義で将来の進学資金として貯金している場合、財産分与の対象となります。しかし、親族からもらったお年玉やお小遣いを貯金したものは、子どもの財産となり対象外と考えましょう。
上場株については、分与時の価格で算定します。 夫婦の一方が経営する会社の上場していない株式については、株式の価格を評価する必要があり、資産から負債を差し引いて株数で割る純資産方式が一般的です。
就業規則や規定により計算可能な民間会社や公務員の場合は、財産分与の対象となりますが、退職時期が遠い将来の場合は、将来利息の控除や不確実な要素があります。
別居時に解約したと仮定した解約返戻金額が財産分与の対象となります。別居後、契約者でない方が保険料を支払っている場合はその寄与を考慮する必要があります。
別居時の自動車の処分価格で評価されます。 ローンやリース車両の場合は、処分価格がローンを上回っていることが多く財産としては評価せず、処分価格を差し引いたローンを全体の財産分与の清算の際に清算対象とするかが問題となりますが、自動車が不要となり、処分した場合は、ローンも清算対象とすべきですが、処分せず使用続ける場合は、ローンは清算対象とすべきでありません。
未払の婚姻費用についても、財産分与の中に含めることができます。別居後7年分の婚姻費用相当額を財産分与として支払を命じた判決があります。別居後の婚姻費用が未払の場合は、未払の婚姻費用も上乗せした財産分与を請求すべきでしょう。
ただ、未払の婚姻費用の全額を裁判所が財産分与の中に入れて支払を命じてくれるかどうかはわかりませんので、交渉が決裂して裁判所での手続きとなった場合は婚姻費用の支払の申立を必ずしておくべきです。
婚姻中に積み立てられた年金、厚生年金(サラリーマンの年金)と共済年金(公務員の年金)の分割が可能です。
夫婦の双方が婚姻中に積み立てられた部分を合算して、一定割合(最高2分の1)で分割します。
裁判所は財産分与と同様2分の1と考えていますので、2分の1で合意すべきです。夫婦の話し合いによって分割できますが、話し合いによる合意ができたら、双方が年金事務所に届け出るか公正証書にして年金事務所に届け出る必要があります。 話し合いによる合意ができない場合、合意ができたが相手方が手続をしてくれない場合は離婚後に裁判所に年金分割の調停申立をすれば裁判所が2分の1に分割してくれます。
話し合いができない場合は、裁判所の調停で話し合うこととなり、調停でも合意できない場合は、裁判所が決めることになります。 年金分割は、離婚後2年以内に裁判所に申立をする必要がありますので注意が必要です。
結婚中は共働きだった場合は?
自営業者でなければ年金分割は可能です。年金分割は夫婦が加入する厚生年金を分割する手続きですので、夫婦が会社に勤務し、それぞれが年金保険料を支払っている場合には、保険料給付実績のうち報酬比例部分の多い方から少ない方に分割することができます。
手続きの流れとしては、年金事務所のホームページから情報通知書の請求書をダウンロードして所定の書類を添付して、年金事務所に請求してください。この通知書を見れば、どちらが分割をする(される)側かが分かります。この交付手続きに他方配偶者の関与は不要です。
分割を受ける側の配偶者は、他方配偶者の協力が得られれば、年金事務所に予約を取って、一緒に事務所に行って分割の手続きを行うことができます。他方配偶者の協力が得られない場合には、公正証書の作成や家庭裁判所での調停手続きが必要となります。 年金分割は離婚から2年以内という期限があるため、離婚前から準備しておくことが望ましいです。
公正証書や裁判所の判決や命令で、定められたお金を相手方が払わない場合、強制執行が行われます。
強制執行の中でもっとも簡単でよく利用されるのが、給料の差押えです。 相手方の勤め先に対する給与を差押えると、手取りの4分の1の限度(4分の3が33万円を超える場合は、33万円を超える額)で勤め先から支払いを受けることができます。
養育費や婚姻費用の場合は、1回の不履行で将来の部分まで含めて、2分の1まで差押えできますので給料の差押えは有効です。 給料以外にも、相手方が個人経営の場合、売掛金、賃料、顧問料、医師の診療報酬なども差押え可能です。 相手方が土地や建物をもっている場合は、申立費用がかかりますが、不動産の差押えによる競売が可能です。